ねこやすの不思議雑記

怖い、不思議 気になる世界の話

怖い話 「連れてきちゃった」



 


ある一人暮らしのOLさんが体験した話。

 

 その頃、彼女は仕事がとても忙しく、毎日終電ぎりぎりまで仕事をし、へとへとになって帰宅する、という生活が続いていた。

 

 その日も深夜に近い時間に自宅の最寄駅を降り、くたくたになりながら帰路についていたところ、携帯電話に着信があった。相手は、近くに住む学生時代からの仲の良い友人だったのだが、こんな時間にかけてくるのは珍しい。彼女は嫌な予感がした。

 

 というのも、彼女には昔からいわゆる霊感というものがあり、そういったことに関する相談を受けるという事がときどきあった。

 

 正直、疲れ果てていたので電話に出るのをためらったが、結局仲の良い友達を無視することはできず電話にでた。すると案の定、友人は家が大変なことになっている、お願いだからきてほしい、こういう事を相談できるのはあなたしかいないと頼みこまれた。

 

 友人宅につくと、たしかに大変なありさまだった。 

 

 床には割れた食器や物が散乱し、室内には、パシッ、ビシッというラップ音が鳴っている。棚の戸がひとりでに開いて食器が飛び出して床に落ちたり、本棚から本が飛び出して床に落ちたり。

 

 途方に暮れている友人を落ち着かせ、彼女は自分が知っている、こういう時に使える対処法をいくつか試して、現象をおさめる事ができた。

 

 感謝する友人をあとに、やっとのことで自宅のドアを開けた瞬間、何とも言えない嫌な感じがし、経験から、ああこれは連れてきちゃったな…と確信した。

 

 疲れて早く寝たかったので、あれこれ試す気にもなれず、彼女は自分の寝所に結界をはって寝てしまうことにした。結界の方法にも色々あるらしいのだか、その時彼女が使った結界は、鏡を使った方法だった。

 

 まず家中の鏡をかき集め、自分の寝所を囲む、そしてそれら一つ一つに念を込め、つないでいく。

 

 結界を作り終えると寝所に倒れ込み、寝てしまった。

 

 どのくらい寝たのか、ふと目が覚めた。ぼーっと暗い天井を見上げていると、暗闇の中で何かがうごめいていた、何だろうと見ているうちに、だんだん暗闇に目が慣れてきて、それが何かわかった。

 

 腕だった。

 

 人間の、手から肩ぐらいまでの、太い裸の腕が何もない空中からぬっと生えていて、ばたばたと動いている。

 

 えー、何これ…と思っていると、腕は何もない空間ににゅっと引っ込んで消え、すぐ近くで床の上を何かが移動するような、カーペットがこすれる、ず…ず…という音がして、また別の方向から腕が生え、ばたばたと動きだす。それをくり返している。

 

 彼女は必死に自分の置かれている状況を考え、答えに至った。

 

 結界だ。きっとこの結界はもっとたくさんの鏡を使って隙間なく囲わなきゃいけないのだろう、けど一人暮らしの自分の部屋にそんなにたくさん鏡があるわけもなく、鏡と鏡の間に間隔が空いているのだ、だから結界も、バリアーのようなものじゃなく鉄格子のように隙間が空いていて、こいつはその隙間を見つけては腕を突っ込んで手探りし、何もないとわかると移動してまた隙間に腕を突っ込んでばたばたと探る、それを延々と繰り返しているのだ。

 

 結局朝まで一睡もできず、外が明るくなってきた頃にそいつは消えたそうだ。